「To become someone someday.」−いつか何者かになるため–
【和久井大城ロングインタビュー・後半】

和久井大城 スナップ写真 お台場

前回、和久井さんの演劇人生とこれからについて、SATAオリジナル『和久井大城 人生グラフ』を元に話をして頂いた。若きエンターテイナーと役者・脚本家・演出家、3つの顔を持つ彼だから、見えてくること。今回、演劇を作るためのそれぞれの取り組みを詳しく伺った。

 

––和久井さんの演技を何度か拝見しましたが、どのような役でも『そのままのわっくん』であるかのように感じます。役にどのように接していますか。

それは作品による。もちろん2・5次元ミュージカルだったら、絶対的な原作を元に演じなきゃいけない。このコマはこの表情で、このポーズをするっていう正解があるから、そこに演技をはめに行くのが正解だと思う。それに対してオリジナルの演劇は、どのように演じたとしても不正解も正解もないし、答えは無限にある。俺はオリジナルのそういう面白さが好きだから、オリジナルの脚本を書きたいし、自分がその役をやる「良さ」を乗せて演じたいと思ってる。どんな役を演じても『そのままのわっくん』で、自然体のように見えること。それが良いとSATAのメンバーに評価されたのは、今までやってきた役づくりが少なくとも間違っていない証拠だ。

和久井大城 スナップ写真 桜

––数多く脚本を書いてきたと思いますが、脚本を書くにあたって大事にしていることは何ですか。

脚本は、まず自分が伝えたい大きなテーマがあって、そこから物語を作っていくのが基本的な作り方。でも俺は面白い設定を先に考えてからストーリを作り、そこに少しずつ自分の伝えたいことを挟んでいく。こう見えて恥ずかしがり屋だから、自分の伝えたいことを前面に押し出すことはあまりない。自分の脚本で誰かの人生を変えようってほどの意気込みはないけど、自分が面白いと思うことを同じように面白いと思ってくれる人のために書きたい。もう一つ大事にしていることは、役者が演じていて楽しいと思える脚本かどうか。正直、お客さんに楽しんでもらうのと同じぐらい重要かもしれない。役者がつまらないと感じたら、その脚本はやらない方がいいとまで思っている。

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––逆に演出をしている時、配慮することはありますか。 

一番念頭に置いていることは、役者をいいように見せたい、魅力を最大限に引き出したいということ。自分が指示した10のことを役者が10で答えてくれるのが理想だけど、10言って2しか返って来ないのなら、その演出方法は間違っていると思う。それぞれ個性がある役者の良さをどうやったら引き出せるか、しっかり考え直す。もしかしたら演出を変えることで、10をさらに超える演出が生まれるかもしれない。これから2本演出をする作品があるけど、もしそんな場合があったら、脚本を変えてでも役者が輝ける演出にしていきたい。

和久井大城 スナップ写真 お台場

––脚本家、演出家、演者と3つの違うポジションから舞台を作って、感じたこと、得たもの教えてください。 

演出と脚本を経験すると、人の脚本を読むことに対して価値観が変わる。自分が書いた脚本は一字一句、語頭から語尾まで大切だし、それに意味がある。だから人の脚本も同じように大事にしたい。これは役者だけをやっていたら気付けなかったことだ。何本も脚本を書いたけど、決して脚本家と名乗るつもりは無い。やはり、一番は役者。俺が脚本を作る理由は「こういう設定のお芝居を見たいな、出たいな…なら自分で作っちゃえばいいじゃん」ということが根底にある。だから脚本書くときは役者の目線で書いている。演出家として舞台を作る時も、役者としての意識を常に持っている。自分の思い描いていた方向に演劇を寄せる難しさに頭を抱えることが多いけど、たまに自身が狙って書いた、笑いのポイントやセリフの間、テンポを想像以上の演技で魅せる役者がいる。「その表現は全く考えになかったけど、そっちの方が良いから採用!」となる瞬間が一番楽しい。でもそれはある意味、役者として悔しく感じるし、負けたなと感じる。

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––演劇の世界でプロとしてやっていくために意識していることは何ですか。 

『締め切り』この一言に尽きる。仕事に対しての時間を守る。「ここまでにセリフ覚えてください」「この日までに脚本書いてください」と言われたら、締め切りを守るのは当然。さらにもっと言うと、仕事は早ければ早いほうが良い。ダラダラと時間をかけて中途半端なクオリティーのものを出すなら、早いほうが良いに決まっているし、それが出来るからプロなんだ。そういう意味では学生も卒業という締め切りがあるから、それまでに何ができるか考えられる人はプロになる素質があると思う。

和久井大城 スナップ写真 夜

––最後に私たち学生に向けてメッセージをお願いします。

少し厳しいことを言うよ。とある舞台で駆け出しの大学生の役者たちと共演することになったんだけど、その子達が本当に酷かった。駆け出しであることを抜きにしても、時間守らない、セリフを覚えてこない、挙げ句の果てに稽古場で恋愛をしてしまう始末。普段は飄々としている俺でも、稽古場に入ったら基本的には一人でいるし、演技する時以外はほとんど喋らないぐらいの構えで望んでいる。だから本気じゃない人はお芝居の世界に来ないで欲しい。逆にお芝居をしたくてこの世界に入ってきたという入り口は俺と一緒だから、やるなら真剣にやるべき。自分を見極める時間に長い大学生活を費やして欲しい。学生の間に何かをやれることは本当に素晴らしいことだと思う。何かを始めることに対して、早いに越したことはないし、「若さ」は大きな強みになる。今、皆に何か目指すものがあるなら、本気で、学生のうちに何者かになってやろうというくらいの気概で取り組んで欲しい。

記事・木村彩華 写真・松丸洋大

和久井大城 スナップ写真 夜

和久井大城(わくいだいき)1993年1月16日、東京生まれ。タイムリーオフィス所属の俳優。多数、脚本、演出も手がける若手の注目株。 

〈代表作〉

「最遊記歌劇伝〜異聞〜」/「バクバスターズ」/ teamキーチェーン「徒花」

脚本:「こっちにおいで、ジョセフィーヌ 」/「あたしをくらえ。」 

〈今後の予定〉 4月22日〜28日「Second you sleep」/ 5月17日〜21日 teamキーチェーン「ねこのはこにわ」主演